ちょっとしたテスト

火花を散らしながら回転しているグラインダーの不愉快な音に似た音を聞いた記憶だけがある
歯医者の音が苦手なのは生まれる瞬間の苦しみの中で聞こえていたその音の記憶のせい
血が苦手なのは胎内で長い間感じ続けていた最も近親な存在の血液の匂いを記憶しているから

というわけで、この日、誕生してみた。

東北のとある市の総合病院で生まれたと聞かされている。躰は丈夫だったとか病気を良くしたとか様様に聞いているがどれが本当だったのが解らない。未だ親は健在だから聞けば良いのだろうが・・・。昔の話をして懐かしがるほどの暇はないらしい。父の子であるという理由で体格が良くなると言われ母の子であるという理由で背が高くなると言われたと思う。どういう言葉を最初に話したのかは忘れた。立ち上がる瞬間どういう決意と覚悟をもってしたのかも忘れた。父親と母親をどういう生き物として認識していたのかも忘れた。

ともあれ、父にも母にも何の所縁もない東北の小さな町に居住することになる。文学的には、生粋の東北人である。