カルパッチョーと愉快なギャングたち (承前)
♪勤勉パンク 起きたら4時ック ゲバ棒片手に パパイヤ腐らす
人間リンク 余裕でパニック 願望過多でも ロザリアかざす
ローザの原書ペラペラめくって
糞辞書片手に数十年って
脳みそ腐って 40過ぎて
バナナくわえて ウラ! 階級闘争
ガリ弁パンク はみ出しガーリック 白髪が目立ったゴマ塩コック
チンネン坊主 女優とファック サンボおおかた 伽藍に響かす
ネギトロつまみに トロ系の悪態
糞味噌語って数十年って
ちんぽも萎んで 50過ぎて
ハバナ夢見て ウラ! 階級闘争♪
いつもと変わらない北千住界隈の平均的な食堂。季節は夏。
店内では、勤勉パンクこと智以佐一が、店員だから糞暑いなか汗も拭かずに走り回ってて、糖尿病の甘ーい汗の香りを振りまいている。フローラルな香り漂う、そういうサービス。レジ横の汚いテーブルをいつも昼時に占拠してるイチヂクみたいな顔をした婆、小池桂子が、その様子を眺めて嬉しそうに、「マンボウ漬けのデブがブッチョブッチョ バランスバランス」と歌っている。
「秋田県大曲産トルエン丼一丁〜」と智以佐一が食堂の喧噪にかき消されそうに自信のない声で注文を厨房に通す。
やいなや、「トルエン丼は売り切れだって行ってるやんか! アフォ! 今日のお薦めも便所の紙のストック場所も、安い社会主義ビールの注文も先も、何百ぺん言っても覚えられネーんか、この砂糖頭が!」と、大声で小言をいいながら若いのに腎臓を悪くしたコック長がホールに出てくる。丹念に洗たくされてるま白き割烹着に身を包むも、人工透析用のチューブが厨房の奥から彼の大腿につながっていて痛々しい。「ったく、との客だ! トンエン丼一丁なんてバカな注文するのは」と、食堂にいる客の全員に聞こえるようにわざと。さっきまで、北千住西口の飲み横で客引きしてる不法滞在っぽいアジア人女性や、キャバクラのボーイとその上司のいかつい男、物珍しさでいつもいつも飽きずに客の一定割合を占めてる近くの芸術大学のセンスのない糞学生たちが、あるいは何語かわかんない言葉を大声で叫び笑い声をあげ、あるいは売る上げの悪さに「殺すぞ」とか物騒な怒鳴り声を響かせ、あるいは場違いなケータイ電話をかざして♪ピロロロローンなんて間抜けたシャッター音を鳴らしながら自己満足の写真撮影に興じながら、大量の音を空間に流すことでそれぞれの音単体の響きが消されひとつの大きな音響の塊になるというジョン・ケージの実験のように、何が何だか分かんないくらいに響いていた食堂の<喧噪>が、すっと一瞬で消え去った。
その静寂に気を良くしたチューブ付きのコック長は、さらに大声を貼り上げ、<大きな声は地声>とばかりに「でえ、どのテーブルなんだ〜 そのお客さまは!」と続ける。
智以佐一は<この人です>といいたかった。この瞬間世界中の人々に姑息だと思われても良い。南半球でこの瞬間も飢えに苦しんでいるマラウイやエチオピアの子どもたちと、その子どもたちに食料を渡すために、アメリカやヨーロッパ資本の衣料工場まで危険な道のりを歩いて、ある者は、ならず者たちに犯され、ある者は野生動物に襲われて腕を失い、気も失い、そんな人たちにも、姑息だと思われても良い、そのテーブルとお客をチューブコックに教えて、教えることでとりあえず、この場の透析チューブ付きコック長の怒りの矛先、意識は常に何者かについての意識であるの志向性を、そっちに向けて、できうることならばコック長の躰の奥底に流れるキレイな血液とキタナイ血液とが合流する渦のあたりをくすぐるようにして、甘えたかった。超媚びたかった。
「こ、こ、この・・・」と智以佐一がいいかけたとき、ま白き割烹着に身を包んだコック長がその小さい声にかぶるように食堂全体に向かって「お客さん、トンエン丼売り切れなんですってば! 牛ユッケ丼なら用意できますけど、どうしますか、どうしますか?」と見得を切る。「あァ、ど〜う〜し〜ま〜す?」。
次。一瞬にして、食道全体が凍りつき、まあ、そんなことはないのだが明かりが暗くなったような気がして、とりあえず、アジア系女性たちは言葉もわかんないのになぜか黙ってしまってるし、芸術大学生の男子もケータイかざしたのまま、しっこちびり顔になったまま止まっている状態になり、凍りついて均衡。
そのときだ。
「オレが、頼んだのは、あッ、秋田大曲産トンエン丼なんかじゃねーんだョ」
な〜んて、男の声が。
というわけで、疲れたし、雷も鳴ってるし、今日はコレギリ。